GALLERY SUGAYA

悪魔の橋  


悪魔の橋(メゾチント)
悪魔の橋 March 2016 メゾチント 235mm*176mm

 東西に連なるスイスアルプスの中程にアンデルマットという町があります。古くからの交通の要衝で、ここでは、フランスからローザンヌを経てオーストリアへ抜ける東西方向の鉄道とドイツからチューリッヒを経てイタリアへと南下する鉄道が交差しています。
 しかし南北に走る鉄道は、アンデルマットの地下を抜けていますので、アンデルマットでは東西に走る鉄道から南北へ走る鉄道へ乗り換えることができません。乗り換えるには別の電車でアンデルマットからシェレネン渓谷を北へ下り、谷底にあるゲシェネンという静かな町まで行きます。
 この乗り換え電車の右側の窓に瞬間的に見える有名な景色が「悪魔の橋」です。

 13世紀の初め、北のルツェルン方面からシェレネン渓谷を通り抜けてアンデルマットに達し、さらに南のザンクト・ゴッタルト峠を越えてイタリアに入る街道の建設が進められていましたが、工事の最大難関がこの橋の付近でした。そのあまりに厳しい状況に人々は自分達の能力の限界を知り、悪魔に頼んで橋を完成させることにしました。
 契約に際し、悪魔から橋を完成させた報酬として、橋を最初に渡るものの命を求められた人々は、人間の代わりにまず羊を渡らせることで対応しました。

 この話は、橋の工事が困難を極めたことを後世に伝えたいがために作られたものではありますが、だまされたことを知り、怒り狂ったであろう悪魔に何となく同情したくなるのは、おかしいでしょうか。

 さて下の写真は2001年に列車の窓から撮りましたが、その時に見た橋の印象がかなり強烈で、それからはあの橋の上を一度は歩いてみたいと思うようになりました。漸く念願かないアンデルマットからゲシェネンまで歩いたのは、12年後の2013年でした。

 はじめてこの橋を見てから何枚かの油彩画を描きました。初めは周囲の景色も描いておりましたが、次第に必要なものだけを残すようになり、デフォルメもし、最後には真っ暗な宇宙空間に浮かんだ感じになりました。橋の一部に悪魔の目を描き入れました。
 最終的にはメゾチントによるモノクロームになりましたが、このような絵はシュールレアリズムの範疇に入れていいのでしょうか。

車窓からの悪魔の橋
車窓からの悪魔の橋