岩に囲まれた家
LIN版画工房での銅版画実習は、第三ステップに入り、今回はソフトグランドを試みました。
通常のエッチングは、銅板表面に比較的硬い防食膜(グランド)を作り、ニードルで線描、腐食させて凹版を作りますが、ソフトグランドでは、柔らかな防食膜(ソフトグランド)を使用します。銅板表面にソフトグランドを塗布してから木の葉やレースなど適当な素材を乗せ、軽くロールプレスすると、素材を乗せた部分の防食膜がなくなり、銅の表面が腐食されるようになります。素材の形が転写された版ができるわけです。
このようにソフトグランドの原理は簡単で、絵画の知識があまりなくても誰でも制作を楽しむことができます。
銅版画を習い始めたばかりですので良く判りませんが、専門家の間でもこのソフトグランドはかなり重要な技術として位置づけられているのではないかと思います。この方法によれば、自然物の繊細な造形や工業製品のモダンな形状を写しとることができ、表現の幅が広がります。予期しなかった効果に感動することだってあるでしょう。
さてソフトグランドを試みるにあたって、モチーフを何にするか考えていたところ、十年ほど前に描いて途中で投げ出していた油彩の小品が目にとまりました。密度の高い作品を目指したのに思うように仕上がらず、半分断念していたものですが、これを見ているうちに銅版画、特にこのソフトグランドを使えば、ある程度のレベルのものができるのではないかという期待が少しずつ膨らんできました。
中央の建物部分に使用するプレス用素材については、いろいろ考え、テストもした結果、建築模型に使う芝生を採用しました。建物の周りの空間には、メゾチント作品の一部に使ったことのある自動車補修用の薄付パテを使いました。まず型紙を使って芝生を建物の形に切り抜き、厚紙に貼ります。その建物の周りに直接パテを塗りつけます。
このようにして作った型をソフトグランドを塗った銅板にプレスし、エッチングして版ができましたが、さらにこの版に煙突や明りとりの窓をドライポイントで描き入れ、明暗を修正し、完成させました。なお建物の屋根に明暗がありますが、暗い部分は二回プレスとエッチングをしています。
結果としては、私が持っていたイメージとは多少異なりましたが、かなり巧くまとまったのでもう少し大きな版で再チャレンジしてみたいと思います。(2012年9月)