GALLERY SUGAYA

齋藤義重展  


齋藤義重展入場券

 6月29日まで千葉市美術館で開かれていた斎藤義重展を見てきました。中央区役所の建物の中にある素敵な美術館でしたが、会場を出るまでに見かけた入館者が五、六人、各室に配置されているガードマンが目障りなくらいに空いていました。梅雨に入り、その日が異常に蒸し暑かったためか、千葉県の人たちが抽象画に興味がないからかよく判りませんが、立派な企画展がもったいない気がしました。

 今から50年近く前に、はじめて斎藤義重の作品を目にし、私は感激しました。赤と白を基調とするその作品は「鬼」と題され、非常に明るくリズミカルで、抽象画の世界とはこんなに凄いものかと思ったくらいです。しかしその後、雑誌などで黒い板を組み合わせ、沢山の糸で結びつけたような作品を目にしたことはあったものの、しばらく画の世界から遠ざかっていた私の頭の中の斎藤義重は、「鬼」の段階で停止していました。今回の展覧会では、この懐かしい「鬼」とも再会できたし、「鬼」以降の斎藤義重の軌跡を辿るよい機会にもなりました。

 会場で最初に展示されているコラージュによる作品は、「鬼」よりも20年も前の1937年に制作され、それ以後の斎藤義重の展開を暗示している魅力的な小品です。この頃の作品をもっと見たいところですが、その後第二次大戦中までに制作された作品のほとんどが戦災で失われており、この展覧会でもこの小品と「鬼」との間には3点が展示されているに過ぎません。 

鬼・油彩
鬼 齋藤義重

 さて斎藤義重についての結論を先にすると、完結した作品の中の生涯最高の傑作は、やはり「鬼」だということになるかと思います。  「鬼」以後の彼は、しだいに物体と物体の間に働く力、あるいは物体の周りに生じている力学的な空間構造というような問題に興味を持ち、作品が平面的であっても立体的であっても、実験することが制作であるという状況になったようで、完結した作品ができていないのです。

 具体的にいえば、何枚かの黒い板を沢山の糸で斜長橋のケーブルのように結び付けている作品は、糸が物体間に働いている力線を表しているように見えます。また凹凸をつけた板と凹凸を逆にした板とを並べた作品は、現在私たちが存在している通常の世界と反物質の世界とを対比させているかのようです。つまり彼は複数の物体(作品)をつくり、それを並べたり対比させたりして、その間に生じる何らかの作用を感じようとしているようです。彼は物理学にも大変興味を持っていたといわれますので、先端物理学の成果を驚きをもって受け止め、表現しているのでしょう。物理的イメージを持って抽象作品を制作することは決してマイナスではないと思いますが、斎藤義重が実験に成功したのか、彼が実験するだけで満足していたのか、私にはよく判りません。(2003年7月)