ディンケルスビュールの夜警
毎晩9時になると、黒い防火マントに身を包み、手に鳶口を持ち、胸にホルンを下げた夜警がセントゲオルグ教会の前に立ちます。彼は立派な歌い手であり、その魅惑的なテノールは、晩飯が済んだばかりの観光客を教会へと誘います。
彼はしばらく歌った後、大勢の観光客の前でディンケルスビュールの町のいわれを語り始めます。
さてレオナール・藤田(1886-1968)は、「小さな職人達」というシリーズ作品を遺しています。 小さな正方形のファイバーボードに油彩を用いた全部で何十枚にもなる作品には、石炭掘り、古着屋、掃除夫など種々雑多な職業に従事している人たちが子ども達の姿に変えられて描かれています。どの作品も活き活きとしていて、昔のパリの雰囲気を伝えていますが、見る人が思わずにっこりするこの味わいは、可愛い子どもがモチーフになっているからこそ出てくるものなのでしょう。
八年ほど前の初夏、仙石原のポーラ美術館でこの藤田の作品を見た後、彼の描く子どもを借用してディンケルスビュールの夜警を描くことを思い立ちました。最初は板の上に油彩で描きましたが、色の調子がうまくいきません。いずれ油彩は描きなおすこととして、取りあえず習いたてのメゾチントを試みました。(2008年1月)