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パウル・クレー・センター 


パウル・クレー・センター外観
パウル・クレー・センター

パウル・クレー・センターは波型の屋根でつながる3棟からなる。曲線状の骨構造は方形の断面を持つ。厚板を数値制御で切断し、現場で溶接加工した。イタリアの建築家レンゾ・ピアノの設計。2005年開館し、4000点以上のパウル・クレーの作品を収蔵する。
真ん中の棟には正面入口と展示スペースがある。
左側の棟には受付、レストラン、荷物ロッカー、トイレ、児童向けの造形学習室などがある。
右側の棟にはミュージアムショップや図書室があるが、大部分は収納庫になっていると思われる。

 ベルン中央駅を降りて、東へ1700m続く旧市街を通り抜け、ニーデック橋を渡り、右折して丘を登り、道なりに2㎞ほど行くとベルン郊外を展望するパウル・クレー・センターに達します。
 駅からセンターまで歩いて1時間くらいですから、一度は歩いても良いと考えていたのですが、日本を出る前にスイス国内の列車や主要都市の市街電車・バスに自由に乗れるスイスパスを買い求めていましたので、パウル・クレー・センターを訪れた3回とも駅前からセンター行きバスを利用する結果になりました。
 なおパウル・クレー・センターは公営の美術館であり、スイスパスを見せると何回でも無料で入ることができます。因みに正規の入場料は20スイスフラン(2500円)です。

 今回パウル・クレー・センターを訪れた際は、展示棟の地下階で常設展が、また一階ではグロテスクをモチーフにしたクレーの作品展が開かれていました。
  常設展は、中央の部屋が幅30m、奥行15mくらいでしょうか。四方の壁を使って15点、クレーの作品がかなりゆったりした間隔で並んでいました。また中央の部屋を外廊下のように囲む幅6mくらいの部屋があり、中央の部屋との境になる壁には、やや小さいサイズの彩色画が22点並べられ、反対の壁にはスケッチなどを主とする小品が展示されていました。中央の部屋と周りの部屋との間には、普通のドアや広い開口部はなく、大人がやっと通れるくらいのスリットが数か所に設けられていました。

 このパウル・クレー・センターが所蔵しているクレーの作品は、4000点以上であり、常設展に展示されているはその数パーセントに過ぎません。しかし展示作品を見るとクレーの作品の中でも特に人気があるものが多く、来館者へのサービスもよく考えられていると思います。

 それでは今回鑑賞した作品の中の数点を紹介することにしましょう。

パウル・クレー作・Luの近くの公園
Luの近くの公園 700*1000

Luの近くの公園

 会場で示されていたタイトルは、Park bei Luですが、このLuの意味がよく判りません。ある日本語の解説では、ルツェルン近郊の公園とありますが、別の解説ではLu.近くの公園です。私は前から呂さんの家の近くの公園かと思っておりました。これはクレー本人に聞かないと判らないことかも知れません。

 それは兎に角として、クレーは公園や果樹園などが好きであったようです。この作品は秋の公園でしょうか。色づいた木々が明るく光っています。青空も木々の間に描き込まれています。原色を少しずつ抑えながら対比させ、バランスをとっています。木の幹や枝の黒い線がリズミカルです。公園の中に光が満ちているようで、見ていて不思議な安らぎを感じます。
 会場の説明によれば、この作品は油性絵具と糊絵具を使用し、紙を貼ったジュート麻布の上に描かれています。

パウル・クレー作・海のかたつむり王
海のかたつむり王 426*284

海のかたつむり王

 この作品は合板の上にモスリン(イラクサの繊維で織った布地)を貼り、石膏を塗った下地の上に水彩と油彩で描いています。基盤が合板でできている上に大変緻密に描かれているので、有機質でありながら硬さがあるというような感じを受けます。真ん中に描かれている丸い像の各部を見ると、人の頭のようなものや女性の胸のようなものが見えます。クレーは夢中で描き上げてからこのタイトルをつけたのかも知れません。森の中に潜むかたつむりの王様、あるいは深海に沈む大きな貝のイメージが湧いてくる作品です。
 芸術新潮の2005年12月号に紹介されていて、是非実物を見たいと思っていた作品です。

オルフェウスの庭

パウル・クレー作・オルフェウスの庭
オルフェウスの庭 325*470

 この作品も日本を出発すときから是非見たいと思っていました。初めてこの作品を知ったのは新潮社のとんぼの本「パウル・クレー絵画のたくらみ」の中にあった作家いしい・しんじさんによる紹介です。

 いしいさんは、大阪で開かれていたパウル・クレー展の会場でこの作品に会い、惹きこまれてしまった状況を詳しく説明し、その後で編集部に頼んで実物大のコピーを作ってもらい、自分の書斎の壁に貼って眺めたと記しています。また彼はじっくり観察した結果として、この緻密でリズミカルな線の構成を音楽そのものとして捉えています。

 オルフェウスはギリシャ神話に出てくる竪琴の名手であり、クレーもバイオリン弾き、従ってクレーが音楽を意識しながら描き、このタイトルをつけたと考えるのが極めて自然です。この作品が純粋な抽象でありながら、かなりのリアルティがあることを付け加えたいと思います。
(2015年11月)