GALLERY SUGAYA

岡村桂三郎展・2018  


岡村桂三郎展入場券

21st April~24th June, 2018
平塚市美術館

 岡村さんが神奈川県立近代美術館鎌倉で大作の連作を発表されたのは丁度10年前になります。
 その時会場の狭い空間は、うごめく怪獣達によって占拠され、観るものはその怪獣の懐に閉じ込められた気分になりました。それは狭い会場空間を巧みに利用した一種のインスタレーションであったと、その後ずっと私は考えておりました。

 今回は会場でのアーティストトークで初めて岡村さんの話を聞きましたが、冒頭で岡村さんは、前回の近代美術館の会場は狭すぎて、作品全体を適切な距離から見ることができなかったのが残念であったというような説明をされました。狭い空間を巧みに利用していたというのは私の勝手な解釈であったようです。

 さて今回の展覧会では、勿論10年間の怪獣の進化を見られることを期待しておりましたが、制作を始めた頃の作品が4点並んでいて岡村さんの制作状況の変遷を理解することができたことがよかったと思います。初期の作品はミクストメディアによるものですが、引っかいたり、削ったり、満足な処理効果が得られない苛立ちのようなものが感じられ、現在の杉板を加工する技法を見出して爆発的に制作を始める状況がよく分かります。

  

岡村桂三郎展・2008  


岡村桂三郎展入場券

26th January~23rd March, 2008
神奈川県立近代美術館鎌倉館

 岡村桂三郎さんは、今年50歳、気力充実の日本画家です。日本画の材料を用い、日本画の表現手法を基礎にし、屏風という表示形式を利用してはいますが、究極的には日本画にとらわれないスケールの大きな造形を目指しているようです。

 さて会場に入ると、いきなり「迦楼羅と竜王」という大作が立ちはだかります。幅が1.2m、高さが3.5mの厚板を12枚、屏風にして並べた作品ですが、場所が狭く、作品の前では数メートルしか離れて見ることができないので、描かれている動物の懐に飛び込んでしまったという状況になります。
 題名の迦楼羅とはガルーダのことで、インド古典叙事詩「ラーマーヤナ」に出てくる怪鳥です。この迦楼羅にしても竜王にしても空想上の動物ですが、しばらく作品の前に佇んでいると、東南アジアの暖かく湿った大気の中に或るときは潜み、或るときは躍動する怪獣たちを間近にしている気分になります。

 この強烈な存在感は、作品の大きさや力強く簡潔なフォルムを抜きにしては考えられませんが、この作家が苦心して創出したマチエールの効果がまた大きいと思います。
 岡村さんは、まず杉厚板の全表面をバーナーで真っ黒に焦がしてから、胡粉が主成分と思われる白い下塗りをします。その上から工具を走らせて傷つけ、下から黒い線を削り出します。長い線もありますが、画面の大部分を覆うのは鱗を表現している丸い線で、この鱗が画面にゆったりした動きと重量感とを与えています。怪獣の表面に軽く塗付された黄土は、焦げ面をそのまま残した背景の黒に映えています。

 展示されていた作品の数は19点で、いずれも鳥や象、魚など動物をモチーフとし、同じ手法を用いた大作でした。しかし帰りの電車の中で、この展覧会のチラシに載っていた数点の小さな作品写真を見て、はっとしました。それらの作品がエッチングかメゾチントによるものと説明されても信じてしまうような具合に見えたのです。言い換えれば、このモチーフと表現の仕方は、岡村さんの作品よりもずっとスケールの小さい銅版画で試みても大変面白いように思えたのです。
 勿論、大作には、大きさがあって初めて私達の感覚に強烈に響いてくるものがあるのですから、私には、これら大作の価値をいささかでも損ねようとする意図はまったくありません。こんな大作に取り組むだけの場所もなく、体力も気力もなく、ただ銅版画で真似をしてみようかと思い始めているだけなのであります。


 (2008年10月)