GALLERY SUGAYA

池田満寿夫展  


池田満寿夫展入場券

26th January~23rd March, 2008
東京オペラシティ Art Gallery

 池田満寿夫は1934年に生まれ、1997年に63歳の若さで急逝しています。彼の作品については、新聞・雑誌で見る程度の関心しか持っていなかったのですが、この回顧展を見てからは、同世代としての親しみを感じ始めています。

 さて今回の展覧会には「知られざる全貌展」というサブタイトルが付けられています。彼の作品は、ちょっとエロチックなものだけが世間に知られているかも知れないが、もっと多様な魅力的作品がたくさんあるよという意味がこのサブタイトルに込められているようです。
 展示されている油彩、版画、水彩、陶芸、書など多分野にわたる作品を見ていると、確かに彼は感受性に富み、器用であり、様々な技術を応用することに熱心であったことが判ります。彼は芸術家としての天分に大いに恵まれ、その知的能力をふんだんに使って、遊びに遊んだといえるのでしょう。

 池田満寿夫は、このように様々なジャンルの作品を遺しましたが、それらに共通するものは、油彩をベースにした絵画であるように思います。彼は多くの作家と同様に油彩から出発し、その後のどのジャンルの作品も確実にこの油彩につながっているようです。
 すなわち彼の彫刻は絵画的であり、陶芸の発想の底には絵画があり、書は抽象絵画なのです。別の言い方をすれば、彼は油彩では表現しきれないものを彫刻に求め、油彩の広がりの先に陶芸を見出し、油彩を単純化し、純粋な造形を求めて書をものにしたのでしょう。彼が様々な技法を求め、沢山の作品を創り出した精力的な姿勢を感じます。

 勿論色々なことをやってみて巧くいかなかった場合もあります。たとえば彼は一時期、メゾチントを始めています。彼は油彩の表現を発展させるものとしてメゾチントに興味を持ったのでしょうが、それらの作品は、意図は判るものの、あまり魅力的な結果は得られていません。彼のメゾチントを手がけた期間は短く、すぐにもっと明るい色で大胆に形を表現できるリトグラフへと移っています。

 展覧会には,色々な形式がありますが、私は、この展覧会のように一人の画家の最初から最後までをまとめた、いわゆる回顧展が好きです。その人が何に興味を持ち、何を考え、何に苦労したのかというようなこと、あるいはその人の傑作がどのような過程を経て生まれたのかということがよく判るからです。
 今回の回顧展の感想をまとめれば、すでに冒頭に述べたように池田満寿夫は遊びに遊んで去ったということです。どの作品を見てもとても面白く、俗っぽい言い方をすれば、一流であります。
 しかしここで強いて嫌みをいうならば、一流は沢山あっても超一流はないかも知れません。彼の才能からすれば、一つのモチーフや技術に集中すれば、超一流の作品を創ることはできたでしょう。
 興味あるモチーフや技術に挑戦し続けて多彩な作品を創るか、超一流の作品に集中するかは、その画家の考え方次第であり、どちらが良いとはいえないのですが、とにかく池田満寿夫は前者を選んで幸せに一生を過ごしたと思います。

 私は、すでに池田満寿夫よりも12年長生きしており、彼が得たほどの制作時間は残していません。残り少なくなった時間を池田満寿夫のように気ままに使うか、あるいは超一流作品を目指して頑張るか悩むところでありますが、多分どちらも困難でしょう。とすれば、池田満寿夫を超える作品を一点でもよいから創ることくらいが私の目標として適切なのかも知れません。(2008年3月)