GALLERY SUGAYA

レーマーホルツ美術館 


レーマーホルツ美術館の庭

深い森に囲まれ、空気がおいしく感じられます。
建物の片隅にあるレストランで、サンドイッチとワインを注文。月に一回ここへ来て、丸一日過ごせたら良いなとぼんやり考えました。
庭の中に置かれている彫刻はマイヨールの作品です。
 

 ヴィンタートゥアは、チューリッヒ空港の北東、急行列車で16分のところにあります。スイスの近代工業都市の代表とでもいえる町で、昔の資産家たちによる美術コレクションを市内8箇所にある美術館あるいは博物館で見ることができます。

 スイス到着の翌日は月曜日で、美術館はどこも休館でした。そのためその日はシャフハウゼンまで「ラインの滝」を見に行き、火曜日にまずレーマーホルツ美術館へ行くことにしました。

 さてその火曜日の朝、ホテルを出て街の中を北へと歩きました。住宅街を通り、鉄道の下を潜り、文教地区を抜けてから、急に増えた緑の中の急勾配を汗をかきながら上がって行きました。リンツベルクという大きな森の入り口まで来ると、左手に木立の中に埋もれるようにして美術館の貧弱な案内板が立っており、奥のほうに古めかしい豪壮な建物が見えました。

 この建物は、オスカー・ラインハルトという実業家の邸宅を美術館にしたもので、彼の見事なコレクションをそのまま収蔵しています。ルカス・クラナッハやハンス・ホルバインなどの古典作品からルノアール、ゴッホ、ピカソなどの近代作品まで、魅力的な収蔵品がたくさんあります。しかし美術館そのものはそれほど大きくなく、一度訪れるだけでは、その収蔵品の全部を見ることはできません。
 なお美術館で買ったカタログは、オスカー・ラインハルトが若いころから80才で死ぬまで、美術品を集め、美術館を建て、美術界に貢献したことを詳しく説明しているのですが、実業家としての実績についてはまったく触れていません。父から引き継いだ資産の使い放題で一生を過ごした幸せものであったのかも知れません。

 今回、鑑賞できた作品の中でもっとも印象に残ったのは、ドーミエです。ドーミエは日本でも人気があり、見る機会も多いのですが、そのほとんどが版画です。しかしここには油彩作品がかなりあります。 ドーミエは、人間の描写に関しては、ロートレックと並ぶ名人であると思っておりますが、作品をじっくりと見て驚いたのは、その丹念な絵の具の塗りこみ方(マチエール)です。漆塗りのような厚さと緻密さと堅牢性を持った感じの仕上がりで、改めて絵画とは、額縁の中の平面で創作される工芸品であると認識した次第です。

 このようなことがあってから、各地の美術館で画を見るたびに額縁と作品の関係を考えるようになりました。もちろん絵画をまず制作し、それに合う額縁を選んだり、注文したりするのが一般的なやり方であり、額縁をあまり評価しない人が多いのも事実ですが、やはり絵画と額縁とは一体のものであると考えたほうが良いような気もするのです。単にキャンバスの上に絵の具を置くのではなく、額縁を意識し、仕上がりのイメージを持って描きはじめることにより、作品の密度が高まると思うのです。 (2004年10月)

ホテル・クローネの前景


宿泊したホテル・クローネ
駅から近く、メインストリートの中ほどにある非常に古いホテルです。
休日は玄関が閉まっているので、呼び鈴を押し、開けてもらいます。 チェックインすると、玄関も開けられるカードキーをくれます。
ヴィンタートゥアにはホテルが少ないためか、やや割高な気がします。