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ビュランの研ぎ方(改訂版)  


ビュラン各種 
太さが異なるビュラン

 銅版画や小口木版画の制作に使用するビュランは、その研ぎ具合が作品の質や制作の能率に大きく影響します。私もビュランを使い始めてすぐにこの問題に気づき、研磨方法をいろいろ研究してみました。
 その結果、ビュランをバイスに固定し、砥石で研磨する方法が最も簡単で確実であること、また研磨したビュランの先を顕微鏡で観察し、研ぎが不足している部分を確かめ、修正研磨作業に反映させるやり方が大事であることが判りました。



当て金

(1) 当て金について
 当て金は、写真に示すような小さな鋼製直方体(16mm*26mm*6mm)で、底の角度が90°になっているV字形の溝が縦と横に1本ずつ入っています。2個1セット で、溝の大きさはすべて異なります。
 私はこれを池袋の東急ハンズで買いましたが、インターネットで検索し、購入することもできます。



当て金の取り付け

(2) 当て金の取り付け
 この当て金をバイスの口の内側(片面だけ)に取り付けるには、普通の接着力の両面テープを使います。当て金の溝とバイスの口の上面となす角度が ビュランの先の研ぎ角度になります。
 適当な細い棒をビュランの代わりに挟んで分度器を当てれば、正確に角度を測定できます。  




ビュランの固定

(3) ビュランの固定
 菱形になっているビュランの研ぎ面の長軸がバイスの口幅方向に一致するように当て金の溝に差し込み、軽く締め付けます。ビュランの研ぎ面が万力の口の上面よりわずかに出るように調整してから固く 締め付けます。この高さの調整は、バイスの口の上面でパレットナイフの刃を滑らし、ビュランの研ぎ面がわずかに刃に引っかかる感じにするとよいでしょう。


ビュランの研磨

(4) ビュランの研磨
 マシン油を湿らせた砥石をバイスの口に当てて口の上面とビュランを一緒に研ぎます。
 何種類かのオイルストーンを試してみましたが、このダイヤモンド砥石の作業性が最も優れていました。これは大きなホームセンターにあります。

 ダイヤモンド超仕上砥石焼結#3000
 アイウッド株式会社(兵庫県三木市)製造

 ビュランの研ぎには、状況により何種類かを使い分ける必要がありますが、私はダイアモンド砥石のほかに中目と細めのインディア砥石、アーカンサス砥石を持っています。

ビュランの背面の研ぎ
ビュランの背面の研ぎ

(5) ビュランの背面の研磨
 ビュランの先端は、四角柱を斜めに切り取ったような三角錐です。切り取って生成した菱形の面を研ぎ面 と呼び、三角錐を構成する三面の中で研ぎ面以外の二面を背面、二面の背面の接線を稜線と呼ぶことにしましょう。
 ビュランは新品でも稜線が丸みを帯びていたり、曲がっているものがあります。これを鋭く、真っ直ぐにしないと使用に耐えるビュランになりません。研磨する背面を砥石の上に 乗せ、ビュランの軸と直角の方向に研ぎます。適量のマシン油を砥石につけ、ビュランの先端の近くを指で軽く押さえると背面が砥石に密着して滑らかに動きます。二つの背面を同じように研いでから、適当な銅板片を使って切れ味を確かめます。ビュランを使用した後で、摩耗した先端を研磨する場合も同じ要領になります。

 このように説明するとビュランの研ぎは簡単なようですが、実際にやってみるとなかなか巧くいきません。稜線が曲がったり、ビュランがねじれたりして手に負えなくなる可能性があります。
 切れ味のよいビュランは、稜線がシャープで真っ直ぐなこと、さらに稜線と二つの背面と研ぎ面でできている二本の線、全部で三本の線が一点に交わって鋭い先端になっていなければなりません。それを実現するには、確実な研ぎの方法とビュランの先端の状態を把握できる観察方法とが必要になります。

平バイスを使ったビュラン背面の研ぎ
平型バイスを使った背面の研ぎ

(6)平型バイスを利用したビュラン背面の研ぎ
 この方法では上の(4)で使用した普通のバイスを使うことも可能ですが、バイスから当て金を外したり付けたりするのが面倒なため、新しく平型バイスを購入しました。このバイスは安価であるし、作業台のどこにでも置いて使えるので便利です。
 写真はビュランをビュラン背面が上面に出るように水平に固定したところです。口金部分には鋼製の板(補強材)を2枚両面テープで貼り付けて、細いビュランでもしっかり固定できるようにしました。この状態で砥石を口金に当てて研磨してからビュランを90度回転させて、もう一つの背面も同様に研磨すると真っ直ぐで鋭い稜線が出来上がります。なおバリの除去など軽度の研ぎ作業は、バイスを使わない手作業で十分です。

ビュランを研磨するためのビュランの固定と観察用顕微鏡
ビュランの固定と顕微鏡

(7)顕微鏡による研磨状態の観察
 顕微鏡の倍率が100倍くらいになるとビュランを適当な台に固定し、顕微鏡もビュラン固定台に安定した状態に置き観察する必要があります。写真に示す手製の固定台は、上面にビュランの軸をはめ込むV字形の溝があり、ねじでビュランを固定します。また携帯型の顕微鏡は60-120倍の倍率で、LEDライトがついており便利です。
  STV-120M (株)ケンコー・トキナー

 ビュランの観察では、ビュランの稜線を上にします。顕微鏡で拡大されたビュランの先端を見ると、研ぎ面、2面の背面、いずれの研磨がどのように不足しているかがよく判ります。それによって各面をどのように修正するかが決まり、研磨作業の能率が格段に向上します。