GALLERY SUGAYA

かしわばあじさいB  


かしわばあじさい(油彩)
かしわばあじさいB September 2005 油彩 F4 334mm*242mm

  いろいろ工夫しながら、先月まで描いてきた「あじさい」ですが、ついに行き詰まりを感じ、新しいキャンバスを出してきました。もっと造形的に面白いものに描き直したいと考えたのです。  さて描き直した作品は、ここまでは割合にすらすらと進み、サインまで入れました。しかし見ているうちにまた不満が高まってきました。葉の造形的表現は良いのですが、肝心の花の方は写実的な味がかなり残っていて、葉の表現とのアンバランスが生じています。葉に合わせて花の方も、もう少し造形的に美しい表現ができないかということになるのですが、これ以上描くと画を壊してしまう恐れもあります。どうしましょう。

 花のような自然の造形物を描いていると、そこには調和、統合、流れなど、美を形作るための多くの要素がバランスよく備わっているように思います。また数年前にスイスアルプスでスケッチをしていたときにも岸壁が見せるさまざまな表情の中に同じようなことを感じたのを覚えています。
 自然の中に美があるというようなことは、すでに昔の絵描きが主張しているところでありますが、古典的な画でなくても、それを意識し、現代的な作品を制作することも可能であろうと思います。

 V・S・ラマチャンドランは、カリフォルニア大学サンディエゴの脳認知センターの所長を務めるインド人で、その著書「脳の中の幽霊」は、専門的な脳の仕組みを素人にも面白く、判りやすく説明しており、日本でも広く読まれているようです。最近、彼の講演原稿をまとめた「脳のなかの幽霊、ふたたび」*)という訳本が出版され、著者は、その中で美を意識する脳の活動の解説を試みています。現在、私も興味深く読んでいるところです。
 人間が自然の中に美を見出す仕組みが判れば、画が巧く描けるようになる、とは思えませんが、新しい解釈に基づく画を描くためのヒントが得られる気もします。とにかくラマチャンドラの幽霊を理解してみましょう。 (2005年10月)

 *)V・S・ラマチャンドラン著 山下篤子訳 養老孟司解説 角川書店 2005年7月初版