GALLERY SUGAYA

山のスケッチ   


スイスアルプスのスケッチ(鉛筆)
シュヴァルツメンヒ June 2001 鉛筆 315mm*228mm

シュヴァルツメンヒ

アイガーの西斜面とメンヒ・ユングフラウの北斜面から冷たい水を集めてラウターブルンネンの深い谷に落ち込む大きな滝があります。激しい水流が岩を深くくり貫いて、縦型のトンネルを作っているためこの滝は少し離れるとまったく見えません。
 このトリュンメルバッハの滝の南側にシュヴァルツメンヒと呼ばれる大きな岩山がそびえています。滝の見物を終えて出てきたところにあったレストランの前庭で昼飯を食べ、ついでにこの岩山をスケッチしました。本当に岩の塊という感じですが、レストランとの高低差が1800mもある大きな山です。ラウターブルンネンの反対側の高台にあるミューレンの街へ行かれた旅行者の中には、一番近くにあってよく見えるはずのユングフラウが見えないと思われた方もあるかと思いますが、それはこの大きな岩山が邪魔をしていたからです。


スイスアルプスのスケッチ(鉛筆)
アイガー東山稜 June 2001 鉛筆 315mm*228mm

アイガー東山稜

 グリンデルワルトの街の中ほどにあるホテルシュピンネの一階はイタリアレストランになっており、その広いテラスからアイガー(3970m)をじっくり眺めることができます。 特に夕日に染まったアイガーの姿は何ともいえません。 この日はこのレストランで昼食をとり、重くなったお腹を抱えながら街の北側の山へ登りました。

 とあるシャレーの門の前に腰を下ろしたくなるような石垣の花壇があり、休憩を兼ねてそこからのアイガーを描きました。 この場所のアイガーを見る角度は、食事をしたレストランとあまり変わりませんが、高さは150mくらい高くなります。画面の大部分を占めるのはアイガーの東山稜で、いわゆる北壁は、山頂の右側にわずかにへこんで見えます。


スイスアルプス、ユングフラウの岩壁(水彩)
雪を載せた岩壁 June 2001 鉛筆 315mm*228mm

雪を載せた岩壁

 ラウターブルンネンで乗り換えた登山電車がベンゲルンアルプの駅に近づくと、急に視界が開けて右側の窓にユングフラウとメンヒが迫ってきます。 乗客がいっせいに歓声を上げ、カメラのシャッターを切るところです。 ユングフラウとメンヒの間には、展望台スフィンクスが小さく光っています。

 このユングフラウの全容をそのままスケッチすると、綺麗過ぎてまるで絵葉書のようになってしまいます。 そのためここでは、ユングフラウの裾の方にある岩壁だけに注目してスケッチしました。

 さてこの壁の上にある雪は、逆光にぎらぎら輝き、漠然と描いていると画面から飛び出してしまいます。 描いているうちに、雪の形を描こうとしたのでは雪は壁から離れてしまうこと、そして雪を壁にくっつけるには雪面から顔を出している岩を正確に描かなければならないということが判ってきました。


スイスアルプス、ヴェッターホルンの岩壁(鉛筆)
窓がある岩壁 June 2001 鉛筆 315mm*228mm

窓がある岩壁

 グリンデルワルトからグロッセシャイデグ行きのバスに乗ると、20分くらいで右側の窓にヴェッターホルンの岩壁が迫ってきます。

 このスケッチの場所は、日本を出る前から地図の上で研究し、予定しておりました。 また当日は岩壁全体ではなく、面白い部分だけを選んで描くことにしていました。 つまり岩の表情をなんとか描いてみようと思ったわけです。

 岩を描くにしてもいろいろな方法があるはずですが、この場合はなるべく濃淡の差を抑え、岩の亀裂の線をできるだけ少なくすることによって、造形的な要素を強調してみようと思いました。 現場では描き切れなかったので、日本へ帰ってからさらに加筆修正しています。 なおこの岩壁のスケッチは二枚目であり、ここから少し山を下った場所で数日前にもう一枚描いています。 それが次の「雪がこびりついた岩壁」です。


スイスアルプス、ヴェッターホルンの岩壁(鉛筆)
雪がこびりついた岩壁 June 2001 鉛筆 315mm*228mm

雪がこびりついた岩壁

 「窓がある岩壁」を描いた場所から200mくらい離れたところで同じ壁をスケッチしました。 岩壁の垂直の線と水平方向の棚状の面とを組み合わせて画面を構成し、数日前に降り、棚上に残っていた雪も採り入れました。

 今回携行したスケッチブックを日本で試し描きしたときは、鉛筆のなじみがよいように思えたのですが、実際に現場で描いたり消したりしているうちに、紙の繊維の強度が不足していたのか、すぐに消しゴムで消しにくくなり、鉛筆も上滑りするようになりました。 そのため帰国後、直したい部分をアクリル絵の具で消してから鉛筆で描きなおしました。 アクリル絵の具には、鉛筆のすべりを調整するためにモデリングペースト(盛り上げ剤)を少し混ぜています。


つぇるマット近くの山崩れ岩壁(鉛筆)
山崩れ June 2001 鉛筆 315mm*228mm

山崩れ

 ツェルマットを出た氷河特急の左側の窓に1991年に生じた大きな山崩れが見えます。上から下までの高低差は450m、幅は1300mにもなります。

 山崩れの現場からさらに川を下ったところに続く岩の壁を描くことがその日の目的でしたが、無残に削り取られた山肌が陽を受けて輝き、それを周辺の山肌が丸く縁取りしているのが面白く、スケッチブックを取り出しました。

 崩落した岩石が形作る左上から右下への斜めの線は、造形的には大変見苦しいもので、描いていても気持ちが悪くなります。 しかし見方を変えると斬新といえないこともなく、何とか処理して全体をまとめてみました。 現実にこのような状況があったからこそできた作品であり、頭の中のイメージだけでは決して描けないものだと思います。


スイスアルプス・ブライトホルン(鉛筆)
ブライトホルン June 2001 鉛筆 315mm*228mm

初夏の雪山

 ベンゲンで借りたシャレー(山小屋風の貸家)から眺めると、右手から前方へ深く続くラウターブルンネンの谷の奥に大きな滝があり、その上には氷河と残雪に輝く峰が連なって見えます。 地図によるとこの滝はシュマンドリの滝と呼ばれ、その上は高原状になっています。 朝夕この滝を中心とした景色を眺めているうちに、あの滝の上へ行ってみよう、あの高原では、雪と花に囲まれて、桃源郷の雰囲気が味わえると思うようになりました。そこである日、山岳ガイドをしている借家のオーナーに登山道の状況を聞き、翌朝早く弁当を作って出発しました。

 このスケッチは、まだ滝の上部の高さまで達しない所で描いたものですが、位置的な関係でこの滝は描かれていません。山はブライトホルンと呼ばれ、高さは富士山よりもわずかに高い3780m、扇子を広げて立てたような美しい姿をしています。桃源郷の最奥部には小さな湖があり、周囲を高い雪山に囲まれた素晴らしいその場所を独り占めしてきました。なおスケッチをした場所の標高は1700m、滝の上部は1800m、湖は2065m、登山口であるシュテッヘルベルクは919mです。


アイガー西山稜(鉛筆)
山稜 June 2001 鉛筆 315mm*228mm

アイガー西山稜

日本アルプスであれば、差当たり上高地の河童橋付近というところでしょうか。ユングフラウヨッホへの入り口であるクライネシャイデグは、グリンデルワルト、ラウターブルンネン両方向からの電車が到着し、登山客でごった返します。

 このクライネシャイデグの駅から少し離れたところにセルフサービス方式のレストランがありました。陽がかなり傾いた時間に遅い昼飯をここで食べましたが、すでに客の姿もまばらだったので、そのままそのテーブルを借りてアイガーの西側の稜線をスケッチしました。
 稜線の右側の雪に覆われた斜面は、西日を受けて輝き、左側の北壁は、絶えず雲が渦をまいて晴れることがありませんでした。(2001年8月)

 注) 2013年に再びこのレストランを訪れたときは、店構えも立派になり、注文方式に変わっていました。(2015年12月)