本文へジャンプ

Research Methods 調査法

 

                                updated Dec.10, 2020

Research Methods 調査研究法

非構造的インタビュー

関連項目 ライフストーリー法の前
非構造的インタビューとライフストーリー法                   

非構造的インタビューとライフストーリー法:インストラクションのためのメモ

      2017/02/17  白水繁彦

 

数百、数千の対象者に全く同一の調査票(アンケート用紙:構造的質問紙=structured questionnaire)をもって調査し、結果も統計的な処理をして検討する調査を「量的調査」という。なかでも構造的質問紙をもってインタビューする方法を構造的インタビューという。これに対し、「質的調査」とよばれる方法がある。少人数の相手を対象に、相手の行動や意識を、本人が生きてきた生活世界のなかで多面的に深く理解しようという意図をもってインタビューする方法である。今回筆者が取り上げたいのは、質的調査のなかでも非構造的インタビュー(non-structured interview)とよばれる方法である。<質的調査にはほかに、半構造的インタビュー(semi-structured interview)とよばれる方法がある。半構造的インタビューは、著名人や、あまり一般的ではない(絶対数そのものが多くない)職業人などに行うのが普通である。大体20人前後、多くても50人前後という相手を対象に、ほとんどが自由回答方式の質問文をもとにインタビューすることが一般的である。筆者が行った例を挙げると、ハワイの沖縄県人会の会長経験者30人ほどに行ったインタビュー調査や日本の著名なフラの先生たち20人ほどへのインタビュー調査などがある。質的調査とはいえ、ある程度共通の質問をつくっておく必要がある。そうしておくと、対象者の間で比較検討が可能である。

 

非構造的インタビューの質問のつくりかた  一般的な手法
 非構造的インタビューは、極端な場合、質問のメモさえ持たずに行うことがあるが、筆者の場合は、いくつか基本的な質問メモを用意することが多い。その際参考になるのが、ライフストーリー(個人史の語り)を訊く際に使われるライフステージにしたがって質問する方法である。質問としては、たとえば以下のようなものがある(これに限らないし、この中から適宜取捨選択したり改変して用いること):

(生年月日や出身地等の基本的項目を訊いたあとに)「幼稚園から小学生くらいまではどんなお子さんでした?」<期待されることがら:本人の自己イメージ、パーソナリティが顕れる可能性がある>

「あなたは小さいころ、どちらかといえば引っ込み思案のほうでしたか、それとも自分から人を誘うほうでしたか?」<同上、および社会性、リーダーシップ>

「そうした性格はその後も続きましたか?それともその後変わりましたか?(どのように変わりましたか?)」

「そのころ、とても印象に残っている出来事はどんなものがありますか?」(本人の価値観、パーソナリティが顕れる可能性あり>

「そのころ、良い悪いにかかわらず、印象に残っている友人、クラスメートはいますか?(いる場合:それはなぜですか?)」<期待されることがら:本人の価値観、規範意識、準拠集団または準拠人等が顕れる可能性あり>

「そのころ、良い悪いにかかわらず、印象に残っている先生はいますか?(いる場合:それはなぜですか?)」<同上>

「中学・高校のころはどんな若者でした?」

「そのころ、とても印象に残っている出来事はどんなものがありますか?」

「そのころ、良い悪いにかかわらず、印象に残っている友人、クラスメートはいますか?(いる場合:それはなぜですか?)」

「そのころ、良い悪いにかかわらず、印象に残っている先生はいますか?(いる場合:それはなぜですか?)」<同上>

「高校時代、どのような将来を描いていましたか?」

「その後の進路はどのように決めましたか?」「だれか大きな影響を与えてくれた人はいますか?」

「(もし、大卒の人だったら)どのような経緯(いきさつ)でその大学へ入られたのですか?」

「大学の先生のなかで印象深い先生はおられますか?(ある場合は:それはなぜですか?)

 「小、中、高、大学という生徒、学生の間に、クラス委員や生徒会、学生会の役員などに選ばれたことはありますか?(ある場合)どんないきさつでその役に就かれたのですか?」<リーダーシップ、社会性、非認知的能力non-cognitive skills等が顕れる可能性あり>

 

その後のライフステージで重要なトピックは就職(転職)、結婚(離婚)、出産、子育て、職業生活、リタイア・・など。そうした、節目節目に関する質問をする(できればインタビュー相手が自ら話を展開してくれるのが理想)。実際の場では、上に挙げたような質問をいちいち発することはあまりない。よいきっかけを与えることができれば、おのずと話してくれることが多い。あまり話してもらえなかったら、用意していた質問を発する、というスタンスでよい。なお、話が脱線しすぎているな、と思っても相手がやめるまでは合槌をするなどして話を聞く。なぜなら、脱線、横道そのものが、インタビュー相手が話したいことなのだから。そこに、その人の思い入れや人柄が隠されているのが普通。一段落したら、用意していた質問を発する。

※要するに、ライフストリー法による聞き取りで期待される「成果」は、(しばしば話者本人さえ気付かない)価値観、規範意識、将来志向、パーソナリティ、準拠枠、準拠集団reference group, reference individual)、そして、変容エージェントに必要な性格や能力である社会性(外向性)、リーダーシップ、革新性innovativeness、非認知的能力等を類推する手がかりclueが顕れることである。逆にいえば、それらが類推できる質問をしたい(とはいえ、「あなたはインフルエンサーだと思いますか?」などといった術語やキーワードをダイレクトに用いた、しかも回答してもらったとしても確たるエビデンスが得られないような質問は愚のなかの愚である。そうした自分の論文中のキーワード、もしくは「キラーコンセプト」(自分の論文の核心的概念)につながるような単語、語句が本人の言葉(口語のかたちで)滲み出てくれば幸運だと思ってよい。

 

 テーマストーリー法

いっぽう、私のいうテーマストーリー法(テーマ・ライフ・ストーリー法)は、基本はライフストーリー法だが、テーマを決めておく方法である(白水,2015,55-57)。たとえば、職業選択(または活動分野選択)のプロセスを明らかにする、というテーマだと:

「小学生のころ憧れていた職業などはありましたか?」あたりが話のきっかけとなるであろう。一段落したら、

「その後、中学、高校のころに考えていた将来像、たとえばなりたい職業などはありましたか?」

また、テーマが教育アクター(親や教師)と職業選択(または活動分野)との関係だったら:

前項の諸質問に加えて、

「あなたが小学生のころ、親御さんはあなたにどんな教育をしましたか?」

「いま振り返ってみると、親御さんはどのような教育方針があったと思いますか?(この質問が難しそうだったら)、「親御さんはあなたにどんな人間になってほしいと思っていたのでしょう?」または、「親御さんがあなたに期待した職業などはありますが?」などと聞いてみる)。

「そうした親御さんに対し、あなたはどんな気持ちを持っていましたか?」

「小学生の頃、良い悪いにかかわらず、印象に残っている先生はおられますか?(おられる場合:それはなぜですか?)」

「中学・高校のころ、良い悪いにかかわらず、印象に残っている先生はおられますか?(おられる場合:それはなぜですか?)」

「仕事(または、その活動)について具体的に考え始めたのはいつ頃ですか?」「そう考えるきっかけまたは理由を教えてください」(高校、大学あたりで、教師や友人など、家族・親族以外が登場すること多し)・・・・

「最初の仕事(活動)はどのような内容のお仕事でした?」

「いつごろまで、その仕事を続けられたのですか?」

「その後、転職されたということですが、差し支えなければ、その理由を教えてください」

(地域を超えて転職していた場合)「その土地へ行かれたのはどんな理由があったのですか?」

「新しい土地にはどのような気持ちで臨んだのですか?期待、希望、不安などなんでもけっこうですからお聞かせください」

「実際、仕事を始めてみてどうでした?思ったよりスムーズでしたか、それとも難しい事柄が待ち受けていましたか?もし差し支えなかったら、どんな困難があったか教えていだたければ幸いです。」「その後、その困難は克服されましたか?どのようにしてそれを乗り越えたのですか?(友人、知人、同胞などとの相互扶助関係はあったか、など必要に応じて」(まだ奮闘中だったら)「困難の原因、理由はどのようなものだと考えておられますか?」等々

 

テーマストーリー法といえども、脱線、横道は重要。あまり性急に自分の問を発しないようにする。その理由は上述のとおり。

 

参照文献

白水繁彦(2015)「 女性が「自立」するということ〜ライフストーリーから読み解く高学歴女性の適応のストラテジー〜 」『Journal of Global Media Studies』No.17/18, 2015. pp.55-67.    

http://gmsweb.komazawa-u.ac.jp/wp-content/uploads/2016/06/j-GMS17-18_12_ShigehikoShiramizu.pdf