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今年こそと7月頃から準備をしたきた乗鞍の山岳紅葉。9月に入って異常なほど秋雨前線が居座ったまま。しかし、紅葉は駆け足で待ってくれない。このままでは再び計画倒れになってしまう。9月最後の週に入っても雨が続き台風も迫っている。その中でたった1日だけの晴れ予報に運を天に任せて出発した。 <2017.9.26~27> |

乗鞍岳は北アルプス西端、岐阜県と長野県の県境。岐阜県高山側と、長野県乗鞍高原側から入山するルートがあるが、大阪から岐阜高山行の直通特急ワイドビューひだを利用する。
復路は微妙。高山線の特急は本数は少ないが、高山始発のため座席を確保しやすい。一方、長野側の中央線は本数の多いが、松本から途中乗車となり座席は時の運になる。現地で決めることにした。
乗鞍岳の紅葉は長野県側のエコーラインの肩ノ小屋口(2616m)から、位ヶ原(2350m)付近が最もスケールが大きい。バス終点の畳平から位ヶ原までエコーラインや登山道を下る。

■ワイドビューひだ
大阪駅始発のワイドビューひだはJR東海のディーゼル車。高山線の特急は名古屋始発であるが、大阪始発の直通特急が1日1往復だけある。中央線も大阪始発の長野行特急ワイドビューしなのが1往復だけあったが廃止、全て名古屋発着になってしまった。
ワイドビューは座席の位置を高くしているため景色が見やすい。新幹線と違い景色がゆっくり動く。雨に濡れた彼岸花がきれい。岐阜で名古屋からの5両を繋ぐ。ここから高山線の単線軌道となる。
木曽川渓流美濃路の日本ラインはやがて飛騨川に名前を変えると、谷が深く橋梁やトンネルが多くなって、中山七里の峡谷を過ぎると下呂。昔は下留(シモノトマリ)とよばれ下留(ゲル)と音読みされ、下呂に変わったと伝わる。飛騨川と別れトンネルを抜けると高山盆地。まもなく海抜537mの表示がある高山駅。
■小京都 高山

一昨年完成したばかりの新しい高山駅舎。飛騨桧を多用しているため木の香が漂う。通路には高山祭の台屋模型などが飾られ、駅舎の外観は町屋の黒い格子を取り入れている。
この日は駅前のホテルに泊まるだけ。駅隣の濃飛バスセンターで明日の情報を入手、夕方まで市内を巡る。午後から天気はゆっくり回復して薄日がさしてきた。
■乗鞍岳 畳平
乗鞍岳に向かうバスには晴れの日ダイヤと雨の日ダイヤがあり、天気が悪いと減便になる。この日は晴れの日ダイヤで濃飛バスセンター6時の平湯温泉行に乗る。平湯峠手前、朴の木平で下車。ここから乗鞍岳畳平行のシャトルバスに乗り換える。
乗鞍岳は2000年頃から一般車の通行が規制され、朴の木平に一般車を受け入れる駐車場が設けられた。高山からバスに乗ってきた人より、マイカーをここに置いてシャトルバスに乗り換える人の方が多い。平湯温泉で宿泊した人も加わり、満員の2台のバスが連なって出発する。
平湯峠(1684m)から乗鞍岳畳平(2702m)まで、14キロの乗鞍スカイレインが開通したのは1973年(S48)。日本で最も高い所を走る雲上スカイライン。一般車が通行規制される前の夏、マイカーでこのスカイラインや反対側のエコーラインも走っている。車窓の木々はしだいに色が変り、2500mを越えると背の低いハイマツ林となる。
■槍・穂高連峰遠望

8時前、乗鞍岳畳平バスターミナルに着く。快晴、気温5度で寒い。ダウンウェアーを着る。
乗鞍岳という山は存在せず、剣ヶ峰(3026m)を主峰とする山岳群の総称。馬の背に鞍を乗せた山容に見えることが名前の由来とされている。
高山から2時間弱、標高差にして2200mも上がってきた。以前、立山室堂で急ぎ過ぎて失敗している。室堂の酸素濃度は単純計算で平地より約25%少ない。それより高いここ畳平では30%弱位になる。天気がよいので早く出発したいがしばらく環境に順応させる。
9時、畳平をゆっくり出発。瑠璃色に光る鶴ヶ池の向こうに北アルプスの槍ヶ岳がきれいに望める。
アルピコ交通の日本一高い県境ゲートバス停(2716m)がある。その前に高山市と松本市にまたがるのが富士見岳。山頂まで標高差100m、距離にして1キロ弱。岩場はなく比較的登りやすい。
夏に群生していた高山植物はもうみられない。森林限界をはるかに越えている殺風景な砂礫地を30分かかって山頂に到達したが、息が上がり景色どころではない。これが後に影響することになる。
■山岳紅葉

富士見岳を下山後、県境ゲートからエコーラインを松本側に下る。S字カーブごとに番号が付けられている。1、2号カーブでは富士見岳の大斜面が広がり、上方から始まった紅葉が徐々に山肌を下りてきて、緑のハイマツ林の中に赤いナナカマドや黄金色のダケカンバが散らばる。遠くに目的地の位ヶ原山荘の赤い屋根が小さく小さく見える。
松本平の雲海の向こうに霧ヶ峰や蓼科山、八ヶ岳連峰が見え隠れする。北アルプスの穂高連峰、槍ヶ岳も望める素晴らしい景色が広がる。さらに下るとエコーラインを登ってくる登山バスがミニチュアのよう。

30分程下ると肩ノ小屋口のバス停。乗鞍岳山頂を制覇して下りてきた人、これから登る人、ここでバスを降りて紅葉を楽しむ人などそれぞれである。
このままエコーラインを下る人も多いが、トレッキング装備をしてきているのでバス停横の登山道に入る。
沢筋の岩場になる。増水した沢の流れを避けて足場を確保、浮き石にも注意しながら下る。途中で水流に阻まれ迂回したり予想以上に手こずる。
しかし、景色は抜群に素晴らしい。初めはハイマツ林が中心であるが、次第に紅葉したナナカマドやミヤマダイコン草が混じり、遠くにダケカンバの黄金色が輝く。

沢から脱してエコーラインの宝徳霊神バス停にでる。乗鞍岳を開山した行者が祀られている。
下りてきた登山道を振り返ると青い空、緑の乗鞍岳の岩肌に白い雪渓、眼の覚めるようなナナカマドが映える。ナナカマド(七竈)は7回カマドで焼いても燃え残るほど火持ちがよいことに由来する。
この先、エコーライン11号カーブの展望所から紅葉の樹海を遠望する楽なコースと、再び登山道に入って紅葉の樹海の中を行くコースとがある。
登山道は最後に「屋根板の坂」の難所がある。そのため迷ったが登山道を下る。だが、先程の沢の岩場よりさらに厳しい。雨上がりで泥濘もある。下りにもかかわらず汗。ダウンを脱いで何度か一息入れる。

■クライマックス
30分程下ると思わず「オ~!」と声がでる。
大黒岳(2772m)の広大な深い斜面にハイマツ、ナナカマド、ダケカンバの三色混合の超ワイドな大海原が目の前に開ける。その向こうに北アルプスの主峰槍ヶ岳、穂高連峰を望む絶景は息をのむ。
狭い足場に三脚を据えたカメラマンがへばり付いている。写真の一画面や二画面では入りきれない。パノラマモードで撮影を何度か試みるが、傾斜が大きすぎてNGとなる。とても画像や言葉だけでは表現しきれない素晴らしさ。必死にここまで歩いてきから味わえる醍醐味である。

しばらく小休止して、吸い込まれるような急斜面、紅葉の樹海の中に突入する。
今まで以上の傾斜、何度か足を滑らせる。「屋根板の坂」と呼ばれる難所である。ダケカンバ樹林の深く狭い急斜面の沢。カメラをリュックに入れ、両手をあけて木々や岩伝いに下るが足が縺れそうになる。富士見岳の登りで消耗した体力に追い打ち、こんなに疲れる下りは今まで経験したことがない。ここを登って来る人に出会う、凄すぎる。
下方にエコーラインと位ヶ原山荘の赤い屋根が見え隠れするが、なかなかたどり着かない。ようやくエコーラインにでる。平地がこんなに歩きやすいとは。
目的地の位ヶ原山荘に着いた時はもう昼を過ぎていた。歩行距離は6キロに過ぎないが登り100m、下り470mを3時間半も要した。振り返えると黄金の樹林が輝いている。こんな綺麗なところを通ってきたのだ。

ここから松本に下るか、再び畳平から高山に戻るか?
松本に向かう乗鞍観光センター行のバス待ちは長蛇の列。満席の3台のバスが出発したがまだ積み残している。空いている上りの畳平行のバスに並ぶ。
バス待ちの間にリュックから取り出した非常食用の菓子パン袋がく膨らんでいる。平地で包装されたパン袋。標高2350mの位ヶ原の気圧は770hpa。さらに畳平は730hpaともっと外圧が低くなるため膨らむ。
畳平に戻ると、西から山肌を這うように急激にガスが吹き上がってくる。みるみるバスターミナルはガスに包み込まれる。天気予報の通り午後から崩れる。14時半に乗った濃飛バス、ガスの中に吸い込まれるようにスカイラインを下る。
高山も曇っていた。飛騨牛の駅弁を買って名古屋行のワイドビューひだに乗る。自由席でも座れた。

■たった半日の晴天
乗鞍の9月の天気はあまりよくなかった。26日の朝、小雨が残る大阪を祈る思いで出発した。徐々に回復して、27日の朝は晴れ、下山する午後から崩れる幸運に恵まれた。
紅葉は早く進み既に終盤となっていた。それに台風で叩かれて、今年は真っ赤なナナカマドや黄金色に輝くダケカンバが少ない、昨年はもっと綺麗と聞かされたが、これで十分満足。いつまでも忘れられない大自然の紅葉絶景として記憶に残ると思う。

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