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「春は名のみの風の寒さや♪」から始まる唱歌「早春賦」は、この地方の早春の美しい情景を歌う。旅愁演歌「安曇野」や「大糸線」では北アルプス、道祖神、梓川、わさび田などが登場する。近年、松本から以北に行く機会を逃していたが、ようやく大糸線の春の景勝地を訪ねる旅が実現した。
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第一章.安曇野 <2023.4.27>
■大糸線

大糸線は松本から糸魚川まで。風光明媚な北アルプスの山麓を走る。大正時代に松本〜大町間で、続いて昭和初期に大町〜糸魚川間の大糸線が開業した。
国鉄の分割民営化に伴い、電化区間の松本〜南小谷(オタリ)はJR東日本。非電化区間の南小谷〜糸魚川はJR西日本の管轄に分かれている。いずれもワンマン列車で無人駅が多い。
大糸線で松本から梓川を越えると、常念岳、大天井岳と続く北アルプスを眺める長閑な田畑が広がる安曇野。信濃大町を過ぎると青木湖、木崎湖や後立山の五竜岳、唐松岳から白馬岳と続く山岳リゾート地。さらに南小谷からは姫川渓谷の秘境地となり、幾つかの架橋を渡りトンネルを抜けると信濃から越後上越の糸魚川。そこはもう日本海になる。
この大糸線に沿って日本列島の真ん中を東西に分断する巨大な地質境界線が存在する。フォッサマグナと呼ばれる糸魚川−静岡構造線である。
■安曇野
当初は安曇野と白馬方面を巡って、最終日に立山の雪の回廊に行く2泊3日の計画であったが、好天気は長続きせず白馬は飛ばして、立山の雪の回廊をジョイントする1泊2日となる。
早朝大阪を出発。安曇野の中心、大糸線の穂高で下車。駅舎前で双体道祖神に迎えられる。北アルプスを源流とする梓川と高瀬川に挟まれた扇状地の安曇野。豊かな地下水が田畑やわさび田を潤す。
安曇野の由来は、福岡県志賀島を拠点とした海族の安曇氏が祖とされる。大和朝廷の水軍を担い北九州から瀬戸内海、阿波、淡路、渥美などを拠点としながら北上。一方、日本海から対馬、安曇川、糸魚川に至り、姫川を遡って穂高の地を支配したなど諸説ある。
穂高神社 穂高駅前で電動アシスト自転車を借りる。スタートは穂高神社。奥宮は上高地の明神池にあり数年前に訪れている。日本神話によると、安曇氏の祖とされる海の神、綿津見命(ワタツミノミコト)の子である穂高見命が穂高岳に降臨したとされる。
大王わさび農園、わさび田 穂高川と万水川(ヨロズイガワ)が合流する中州に大王わさび農園がある。安曇野では唯一過去に訪れたことのある場所。清らかな流れと緑が目にしみるわさび田。30年程前の夏の思い出、妻と食べたわさびのソフトクリームが懐かしい。
早春賦の碑 この地方の早春の情景を歌った「早春賦」の記念碑が、常念岳を望む穂高川堤にある。その少し先に水色の時の道祖神。1975年(S50)NHK朝の連続テレビドラマで造られた。
付近の田園には水が張られ、5月の連休明けから始まる田植えの準備中。その水面に北アルプスの白い山並みを映す春の風物詩、水鏡が各所でみられる。

拾ヶ堰(ジツガセキ) 万水川沿いのせせらぎの小路を走る。小さなわさび田、湧き水公園などを巡り灌漑用水路、拾ヶ堰に向かう。江戸時代末期、水量豊かな上流河川から20数キロ程の水路を設けた。安曇野10村を潤したことから拾ヶ堰と名付けられた。その堰に沿ってサイクリングロードが設けられている。
道祖神 安曇野には400体以上の道祖神がある。江戸時代頃から無病息災、縁結び、五穀豊穣、守り神、魔除けなどとして集落の出入口付近に置かれてきた。特に多いのが双体道祖神。その中でも、桜の木の下の二体の間から常念岳を望む人気の道祖神やアルプスチューリップ公園など約20キロ、5時間程かけて巡った。
翌日は扇沢から立山黒部アルペンルートで室堂の雪の回廊に行く。そのために松本駅前で泊まったホテルで白馬連峰をバックに桜で彩られた大出公園の美しい写真が掛けられていた。「この頃の白馬が一番美しいですよ」と、ホテルのフロントで聞いた。この時、来年の行先が決まった。
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第二章.白馬・千国街道(塩の道) <2024.4.18〜20>
北アルプス山麓の千国(チクニ)街道は「塩の道」とも呼ばれる。この道に沿って走る大糸線。昨年4月末、その南半分の安曇野を巡った。今回は信濃大町から以北、北アルプス白馬連峰を望む絶景スポット、大出公園が桜に彩られる季節を昨年から待ち望んできた。
今年も昨年に続いて暖冬となったが、3月の低温続きで桜の休眠打破が進まず、昨年より1週間程開花が遅れたが、桜の開花と好天気が揃う日を待った。

■信濃大町
いつもの通り早朝出発。始発の新幹線、名古屋からは中央線特急しなの。松本から大糸線で信濃大町には10時半に着く。大町は立山黒部アルペンルート長野側の入口。
昔は千国街道の物流中継点となる大町宿として栄えた。塩問屋であった旧平林家住宅が塩の道資料館として保存公開されている。屋根の棟飾りは昨年訪れた旧中山道の塩尻宿周辺でも見られた、雀踊りとも呼ばれる松本地方独特の本棟造りである。
高台にあるアルプス展望所の大町桜公園、山岳博物館、芝桜が咲く農具川など塩の道を巡る。
鹿島槍ヶ岳を望むこの地方では、山の雪解け模様の雪形から田植えの準備作業が始まる。トラクターで田起こしが始まったばかりの田園地帯を巡って北大町から大糸線で北上。
青木湖沿いの塩の道には庚申塔、馬頭観音などの石仏が多く見られる。このあたりまで来ると、ソメイヨシノよりも色の濃いオオヤマザクラが多くなる。この日は大町駅前のルートインに泊まる。

■千国街道 塩の道
翌日も天気は良いが、寒気の影響で山頂付近が雲で隠れ、すっきりした北アルプスが望めないため、期待の白馬は翌日にして信濃森上で下車。ここから南小谷までの千国街道千国越えを歩く。
江戸時代には松本城下から糸魚川まで約120キロ30里の道のりを、歩荷(ボッカ)や牛馬で信濃の野産物を運び、帰りは塩や海産物を積んだ。その中程、塩島新田宿から千国宿を経て南小谷宿までの千国越えと呼ばれる塩の道の里山には石仏や千国番所、牛方宿、塩蔵などが残る。
塩島新田宿 白馬村の北の外れ、この付近は白馬連峰をバックに長閑な田畑の中を走る大糸線の列車が撮れる場所として知られる。
大糸線の北側が新田集落、昔の新田宿。今はスキー民宿が目立つ。集落の入口に道祖神や多くの石仏が並ぶ。雪解け水が勢いよく流れる水路脇にピンクのオオヤマザクラが咲く。茅葺き屋根やその上に金板を被せた民家が点在する。集落の小山の祠に咲く樹齢400年の桜は、植えた人の名前から徹然桜と呼ばれる。

塩の道 千国越え 塩島新田集落から標高850mの栂池松沢口まで息を切らせて登り切ると栂池高原の入口。栂池高原は高山植物が咲き乱れる夏や、錦秋に訪れてみたい場所。
ここまで前半の7キロが過ぎた。栂池から後半の8キロは下りが多くなる。
道端に百体観音、地蔵菩薩や庚申塔が多く見られる。庚申塔は中国の守り神。明治の神道政策と廃仏毀釈で多くが破棄されたが、旧中山道を訪れた時も所々で見られた。
白馬連山を望む道筋に牛方が牛と共に寝泊りした牛方宿、旧千国家住宅、塩倉などが残る。親坂と呼ばれる九九折れの急坂は、牛や荷車が滑らないよう石畳になっている。牛が水を飲みやすくした石臼。生活に欠かせなかった牛馬を弔った馬頭観音の石仏が随所に見られる。
坂を下り切ると千国宿の集落。茅葺きに金板カバーで覆ったを民家、通行税の徴収や人改めなどを行った松本藩千国番所跡などがある。古い民家を移設、復元した千国の庄資料館で往時の暮らしぶりを伝えている。
千国から南小谷まで再び山道に入る。その先はさらに厳しい姫川渓谷へと続くが、大糸線で白馬に引き返す。
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■日本一美しい 白馬村
北アルプスを形どった白馬駅は昔と変わらない。白馬にビジネスホテルがないため、食事ができる白馬ハイランドホテルにした。白馬を正面に望む坂の上の温泉ホテルであるが、景色の悪い旧館しか確保できなかった。
白馬とシロウマ 地名や駅名は「ハクバ」。白馬岳は「シロウマ」と読む。春、白馬岳の北稜線に「代かき馬」の雪形が現れると田植えを始める目安とされ、代かき馬→代馬→シロウマと読まれるようになった。
大出公園 素晴らしい晴天、この旅のハイライトである。
ホテルから小川沿いに歩いて30分程。白く輝く白馬鑓ヶ岳、杓子岳、白馬乗鞍岳と続く白馬連峰をバックに松川の清流、吊り橋、茅葺き屋根など白馬の原風景に、この日、満開宣言されたピンクのオオヤマザクラが色を添える。四季の中でもこの頃が最も美しいと言われる。しばらく時を忘れる。
吊り橋を渡ると大出集落。茅葺きもあれば金板で覆った屋根もある。入口の小さな道祖神を見ていると、その農家の方から「今日の白馬は特別綺麗!」と声をかけられた。道端には水仙など春の花々が咲く。集落の中程には大きな道祖神、観音石仏、庚申塔などが集められ、花々に囲まれている。
白馬八方 集落を抜けて、白馬をワイドに眺められる松川大橋に向かう。松川の河原堤にもピンクの桜が咲き、さらにその3キロ程上流にある白馬大橋まで来ると、白馬はより近くなる。
白馬駅に戻って、少し時間があったので四十九院のコブシの大木も見に行った。

白馬から松本まで首都圏と結ぶJR東日本の特急あずさに乗る。松本城の漆黒紫のフロンボディに、梓川の水色の流れをイメージした座席シート。松本からはJR東海の特急しなの。
残雪の4月。清らかな雪解け水、木々が芽生えレンギョウ、こぶし、水仙などの草木が咲く千国街道。その中でも北アルプス白馬連峰をバックに桜が満開の大出公園は期待通り素晴らしかった。
登りは息切れ、下りでできた足先の豆をテーピングしながら3日間ト−タルで40キロ強を歩いた塩の道。道祖神や観音菩薩、庚申塔、馬頭観音。牛方宿、塩蔵、郷土資料館などでこの地方の歴史文化に触れた。
昨年はスマホを落とすミスをしたが、今回は愛用のSONY望遠カメラの調子が悪くなって困った。
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